長年にわたる海外生活を終えて日本に帰ってきたヒッキーおばさんの相変わらずのヒッキー日記
勝手に応援させていただいている、琴人・飛田立史氏から、
写真をいただきました。
ご紹介させていただきます。
氏より
こんな夢を見ました。
・・・あれは草刈り鎌の刃のように細く鋭い三日月が天空に美しく輝きそよ風が心地よい夜でした。
一本の大きな梧桐の古樹のある北山の谷間を流れる小川。その清らかなせせらぎのほとりでわたしはひとり端座して静かに七絃琴を爪弾いていました。
螺鈿の徽(キ)※1にキラリと反射する月の光を視野のどこかに捉えながら・・・。
弾くはあの名曲「憶故人」。
するとせせらぎの向こう、奥の暗がりのなかから色白でふくよかな見知らぬご婦人がひとり足音もなく静かに現われたのでした。
金糸や銀糸で煌びやかに飾られた豪華でいて上品な絹の装束を纏ったそのお方は胸元に抱えた琴を指さしわたしにこう尋ねたのでした・・・
「これはあなたの琴ですか?」
それは「玉佩」※2が触れ合う音のように清らかに透き通る美しい声でした。
弦の響きを止めたわたしは「いえいえ。わたしの琴は貴女さまがお抱えのようなそんな立派なものではございません。」と否定の返事をお返ししました。
(中略)
我に返るともうすでに三日月は西山の稜線へと沈みかけていました。
返事をしたことだけは朧げに覚えてはいるのですがその後どんな会話が交わされたのか、そしてどんなことがわたしの身に起きたのかは何故か全く記憶にないのです。
そしてその時になってわたしは初めて気づいたのです。
あのお方は装束を確か左前にお召しでした。ならばきっとこの世の存在ではいらっしゃらなかったのでしょう・・・と。
今、確かに言えるのはあの夜あのお方が抱えていらした七絃琴は現在わたしの手元にあること。
そして今も「清微淡遠」※3。清らかで深い、弾く者聴く者すべての人を幸せにするような美しい音色で鳴って下さっているということです。
(了)
※1「徽」(キ)。七絃琴弾奏時に左手指で弦を押さえたり触れたりする目印となるいわゆる勘所(かんどころ)。琴面に13個あり螺鈿や金、銀、玉などで大小異なる円形に作られる。
※2「玉佩」(ギョクハイ) 貴人が腰に帯びる玉製の装身具。
※3 「清微淡遠」(セイビタンエン) 七絃琴音楽、琴音の理想的表現、境地。明代末年の虞山派琴人厳天池、徐青山らに始まる思想。
琴音と言えば余談ですが・・・
東京住まいの三十年ほど前の記憶です。
上野の国立科学博物館に人類の技術遺産として清朝由来のからくり置時計が展示されていました。
金属製と思われる脚部にゼンマイで動く小川の流れが細工されていて、時報が稼働するたびその流れに伴って鳴る音はまさしく七絃琴の琴音に聞こえたのを憶えています。
また日本には江戸時代から作られ始めたともいわれる「水琴窟(すいきんくつ)」という庭園設備があります。
これには日本にて江戸中期に確かな足音をもって再興した七絃琴の存在、その琴音が意識されていることはわたしたち琴を嗜む人間にとっては自明のこととわたしは思っています。
酷暑のこの時期、水琴窟の泠泠とした音色、リズムは心身に涼やかに染み入ります。
今夏これからも危険な暑さの日が続くとの予報です。
皆さまどうぞお大事にてお過ごしください。
~>゜)~<蛇足>~~
氏から写真&文章と共に、水琴窟の動画を紹介いただきました。
酷暑のさなか、ほっと一息つきました。
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